歯科ブログ
口腔領域の重篤な感染症(2)
2007年08月25日
今回は、もう1つの例についてお話しします。
患者さんは60歳の男性の方で、右上の第一大臼歯(奥から2番目の歯)の腫れと痛みのため来院しました。
今までにした大きな病気は、約30年前に肺結核で数週間入院治療したとのことでした。
お口の中の精査とレントゲン写真から、右上の第一大臼歯の骨がかなり溶けていて(骨吸収)、口蓋側(歯のほっぺた側とは反対の蓋側の方)に1.2X0.7センチ程の腫れが見らたため、歯周病(歯槽膿漏)の急性発作による口蓋膿瘍(上顎の裏側に膿が溜まっていること)と診断しました。
局所麻酔下で、膿を出しました(切開排膿)。
膿は黄色で、臭いもあまりありませんでした。
切開部の洗浄後、膿が排出されやすいように、管を留置しました。
お薬は、多くの細菌に効く抗生物質(セフェム系抗生物質)、膿を溶けやすくするための消炎酵素剤、および消炎鎮痛剤などを出しました。
翌日、膿がまだ切開部から流れていたので、洗浄をした後、管を交換しました。
来院から3日目、排膿がようやく軽減していたため、管を抜去しました。
しかし、全身的な倦怠感、微熱、頭痛などの症状が認められ、切開排膿部の痛みもまだ治まっていなかったため、患者さんに飲んで頂いていたセフェム系抗生物質がこの感染症の原因菌にあまり効かないと判断し、抗生物質をペンリシリン系に変更しました。
抗生物質変更後の2日目(来院から5日目)、患者さんに再来院して頂き、お口の中を診察したところ、切開排膿部の腫れや痛みが軽減しているように見えたのですが、口臭がひどく、歯肉全体が灰白色見え、歯肉や口腔粘膜の出血も所々に見られました。
また全身状態として、顔色は蒼白で、熱が下がらず、倦怠感が強く、呼吸困難もあったため、この時点で初めて口蓋膿瘍が誘因で、全身的な疾患になっていることを疑い、医学部付属病院の救急部に紹介しました。
医学部付属病院に緊急入院後、臨床血液、血清生化などの検査および胸部レントゲン、CT検査で、敗血症によるDIC*と診断され、抗生物質の大量投与、気管切開,呼吸器の使用、血液の細菌培養(静脈血と動脈血)など、高度な救急救命処置、治療が行われました。
入院中に、原因歯である右上の第一大臼歯は口腔外科にて抜歯しました。
その後、長い時間の気管内挿管による発音障害が軽度にみられた以外、後遺症もなく、順調に治りました。
DIC
disseminated intravascular coagulation” 播種性血管内凝固” の略語です。
悪性腫瘍、白血病、敗血症などで、血液凝固反応、血小板が活性化され、全身の細小血管内に微小血栓が多発し、諸器官の循環不全、機能不全を来たす病態です。
全身的に出血傾向(口腔粘膜、皮膚の出血、消化管の出血、血尿など)、血栓形成による臓器の虚血、多臓器不全などの重篤な状態になります。
最近の投稿
過去の投稿

